
1. WebAssembly(Wasm)とは?
WebAssemblyは、ブラウザでC++やRustなどの低レベルコードを高速に実行するためのバイナリフォーマットです。JavaScriptよりも軽量かつ高速に動作し、特に行列演算などの数値計算を効率化します。機械学習モデルの推論や科学技術計算での利用が期待されています。
2. WebGL:ブラウザの3D描画エンジン
WebGLはブラウザで3Dグラフィックスを表示するためのAPIで、GPU上で動作します。3D空間の座標変換には4×4行列を使い、回転や拡大縮小、平行移動を実現。ゲームやビジュアライゼーションで広く使われています。
3. WebGPU:次世代のGPU計算・描画API
WebGPUはWebGLの後継で、より効率的にGPUの計算能力を引き出せます。GPU上での行列演算や機械学習推論を並列で高速に行えるため、WebアプリでリアルタイムAI処理や高度な3D描画が可能です。
4. WebLLM:ブラウザ上で動く大規模言語モデル
近年、WebAssemblyやWebGPUを活用して、ブラウザで軽量化された大規模言語モデル(LLM)を動かす技術が急速に進化しています。モデルファイルをユーザーの端末にダウンロードし、ネット接続なしで推論を完結できるため、プライバシーとセキュリティが大幅に向上します。
5. 行列演算の重要性
AIや3D描画の根幹には行列演算があります。
行列は数値の2次元配列で、その掛け算は計算量が多いため、JavaScript単体よりもWebAssemblyやGPU(WebGL、WebGPU)で並列処理し高速化します。これにより、ブラウザでも高性能な数値処理が可能です。
6. 未来展望:ブラウザでローカルLLMをセキュアに扱う世界
今後は、ユーザーの端末上で大規模言語モデルを動かし、機密データを外部に送ることなくAI活用が可能になります。WebAssemblyやWebGPUの技術で推論性能を高め、モデルとデータはブラウザの安全なストレージに保管。これにより、医療や金融など高いプライバシーが求められる分野でも安心してAIを使える未来が期待されています。
7. カーネギーメロン大学(CMU)の研究紹介
CMUはブラウザ内機械学習とプライバシー保護の分野で先進的な研究を進めています。例えば、
- “Privacy-Preserving Language Models on Client Devices”
クライアント側で安全に大規模言語モデルを運用するための方法論を発表。
これらの研究は、ブラウザ内AI技術の発展を牽引しており、今後のローカルLLM活用に大きな影響を与えています。
技術の関係図
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+------------------------+ | WebAssembly (Wasm) | ← CPU側計算の高速化 +------------------------+ ↑ | JavaScriptから呼び出し ↓ +------------------------+ +----------------------+ | WebGPU | ←→ GPU | 高度な計算シェーダー | | (低レベルGPUAPI) | +----------------------+ +------------------------+ ↑ | 高度な描画・計算 ↓ +------------------------+ | WebGL | ←→ GPU | | (主に描画) | +------------------------+ +---------------------------------------+ | WebLLM (ローカルで動く言語モデル) | | (Wasm + WebGPUなどで推論高速化) | +---------------------------------------+ |